修理録(22)
金継ぎ教室に通った経験のある方からお預かりした2点です。ご自分で直されたものを、再度修理に出していただきました。
本漆を使う金継ぎ教室だと思って参加したところ、実際はエポキシパテを使う教室だったそう。やっぱり漆で直したいということで、こちらで再度金継ぎしました。

エポキシ樹脂で継いだ跡。
一度完全に樹脂を剥離し、漆で充填しなおしました。

仕上げの金粉を蒔く前。漆を塗り重ねているため、下地は黒くなっています。


仕上げ後。元はもう少し小さい欠けだったようです。
抹茶碗の胴にはぐるりと、羊のいる風景が描かれていました。ほのぼのとしたやさしい絵柄です。未年にあわせて購入されたものだそう。蛇足ですが、未年生まれなのでちょっとした縁を感じました・・・。貫入の経年変化も味わい深いですね。


こちらの志野の湯呑みも、エポキシ樹脂で継いであったところを漆で再度修理しなおしました。樹脂は彫刻刀とヤスリを使って、ゴリゴリ削り落とします。

仕上がりを気に入っていただけて一安心です。
エポキシ樹脂や合成接着剤を使った金継ぎは、乾燥させる時間が短時間で済み、かぶれる心配もないこため、最近よく見かけます。金継ぎ教室でも、都合により実施回数が限られる場合などにはしばしば漆と代用されることもあるようです。
が、樹脂を剥離するときにいつも思うのは、口に触れる食器にはなるべく使わないほうがいいのではないか、ということです。削るときに、なんとも嫌な臭いがするのです。自然のものではない、人工物の臭いです。(花器やオブジェなどに使うのはありかもしれませんが)
また、樹脂のバリウムのような白い色には、本漆の持つ深みはなく、どうしても安っぽさを感じてしまいます。金継ぎした部分は、時間が経つにつれ金粉が磨耗し、自然と下地が見えてきます。漆を使った修理跡は、この下地ののぞく様子がまた味わいを引き出してくれます。が、下地が白い樹脂となると、こうはいきません。「樹脂を使えば早いのに」と言われることもありますが、わたしは伝統的な漆を使う修理方法を継いでいきたいと思っています。
現代の道具に利点はあるものの、室町から続いてきた金継ぎの技法が「樹脂を使って手軽にできるもの」として伝わってしまうのは悲しいことです。目には見えない金銀の化粧の下地にこそ、自然の素材を活用してきた先達の知恵が生きています。